AIは、私たちの指示(プロンプト)から意図を読み取り、保育の現場でも頼れるパートナーになってくれます。その能力を最大限に引き出す鍵は、私たちの「伝え方」にあります。より具体的で、分かりやすいお願いをすることで、期待を遥かに超える答えが返ってくるでしょう。
このガイドでは、おたより作成、アイデア出し、行事の準備、さらにはVBAを使った業務改善ツールの作成まで、あらゆる場面でAIに上手に手伝ってもらうための「お願いの仕方のコツ」をご紹介します。
お願いの仕方(プロンプト)の”コツ”完全ガイド
コツ1:役割(ペルソナ)を与える
「あなたは〇〇のプロです」とAIに役割を与えることで、その立場になりきった、専門性の高い一貫性のある回答を生成させることができます。
- 例(アイデア出し) 「あなたは5歳児クラスの経験豊富な担任保育士です。来月の運動会に向けて、子どもたちの意欲が高まるような、選手宣誓の言葉を5つ提案してください」
- 例(文章作成) 「あなたは園長先生です。来年度の入園説明会で、当園の保育方針と魅力を伝えるための挨拶文を、温かく安心感のあるトーンで作成してください」
- 例(プログラミング) 「あなたはVBAで業務効率化ツールを作るのが、得意な保育士です。職員のシフト希望を集計し、公平なシフト表を自動で作成するExcelツールを作るために、必要な要素や仕様をあげてください」
コツ2:文脈(コンテキスト)を具体的に、詳しく伝える
「何を」「誰に」「どんな目的で」「どんな状況で」といった背景情報を詳しく伝えることで、AIは状況を深く理解し、的確なアウトプットを生成します。
- 例(文章作成) 「7月号の園だよりに載せる『水遊びの注意点』に関する文章を作成してください」
- 対象: 0歳から2歳児の保護者
- 目的: 家庭での水遊びも含め、安全に夏を楽しむための注意点を分かりやすく伝えること
- トーン: 専門的になりすぎず、優しく呼びかけるような口調で
- 制約: 文字数は300字程度
- 例(画像生成) 「園庭の花壇をテーマにしたイラストを生成してください」
- コンセプト: 子どもたちが植えたカラフルな花が元気に咲いている様子
- 要素: チューリップ、パンジー、蝶々、にこにこ笑う太陽
- スタイル: 子どもに人気の絵本のような、温かみのある手描き水彩画風
- 色調: 明るく、元気が出るような色合いで
- 例(プログラミング)「毎月のシフト作成が大変なので、公平なシフトを自動で作って時間を節約できるようなものを、作ってください」
- 機能:基本情報(職員数、日付など)を入力する機能
ボタン一つで、全員にシフトを自動で割り振る機能
完成後、誰がどのシフトに何回入ったかを集計する機能 - 手順:①ユーザーが「作成開始」ボタンを押す。
②「職員数を入力してください」という小窓が出る。
③入力された人数のシフト表が新しいシートに自動で作られる。 - 見た目:「更新」ボタンはA1セルに配置する。
表のタイトル「〇月シフト表」は、B2セルに表示する。
土曜日は青色、日曜日は赤色でセルの背景を塗りつぶす。
表の外枠は太い線で、内側は細い線で罫線を引く。
見出しの行は、文字を太字にする。
- 機能:基本情報(職員数、日付など)を入力する機能
コツ3:条件を箇条書きで整理し、制約を明確にする
伝えたいことが多い場合や、守ってほしいルールがある場合は、箇条書きで整理して伝えるとAIが理解しやすくなります。 「〇〇は含めないで」「必ず〇〇という言葉を入れて」といった制約条件は極めて有効です。
- 例(お知らせ作成) 「秋の遠足のお知らせを、保護者向けに作成してください。以下の情報を必ず含めてください」
- 日時: 10月27日(金) 雨天時は10月30日(月)に延期
- 行き先: 〇〇公園
- 集合場所・時間: 保育園ホールに朝9時
- 持ち物: お弁当、水筒、レジャーシート、着替え、雨具
- 絶対ルール: アレルギー対応については別途連絡済みであること、当日の緊急連絡先は園の電話番号であることを必ず明記してください。
- 例(プログラミング)
- ルール①: 1人の職員が3日連続で同じシフトに入らないようにする。
- ルール②: 全員が少なくとも1回以上、早番・遅番で入るようにする。
- 優先順位: もし、両方ともが無理な場合、ルール①(連勤禁止)を必ず優先してください。
コツ4:思考のプロセスを説明させる(ステップ・バイ・ステップ)
複雑な問いに対して、「ステップ・バイ・ステップで考えてください」「結論に至った理由も説明してください」と指示することで、AIは論理的に順序立てて考えるようになります。 これにより、回答の精度が向上し、私たちはその思考プロセスを検証することができます。
- 例(対応方法の検討) 「子ども同士でおもちゃの取り合いが起きた際の対応について、新人保育士向けのガイドを作成したいです。まずは状況の把握、次に関わる子どもの気持ちの代弁、そして解決策の提案という流れで、ステップ・バイ・ステップで具体的な声かけの例を挙げながら説明してください」
コツ5:良い例や悪い例を提示する
あなたが求めるアウトプットの具体的な例をいくつか示すことで、AIはあなたの好みや期待する品質、ニュアンスをより正確に学習します。これは、文章のトーンなどを調整する際に、特に効果的です。
- 例(声かけの言葉遣い) 「子どもが片付けを頑張った時にかける言葉を、自己肯定感を高めるような表現で5つ考えてください。その際、以下の例を参考にしてください」
- 参考例(良い例): 『最後まで諦めずにできてすごいね!』『〇〇ちゃんが手伝ってくれたから、お部屋がピカピカになったよ、ありがとう!』
- 避けるべき例(悪い例): 『すごい!』『えらいね!』(※何が良かったのか具体的に伝える表現を求める)
コツ6:出力形式をデザインする
「表形式で」「箇条書きで」「です・ます調で」「VBAコードで」「日本語で」のように、希望するアウトプットの形式を明確に指定しましょう。 これにより、後工程での編集作業を大幅に削減できます。
コツ7:一度で完璧を求めず、対話を通じて磨き上げる
AIとのやり取りは「一回の指示」で終わらせる必要はありません。最初のアウトプットが期待通りでなくても、諦めずにフィードバックを与え、対話を重ねましょう。
- 例「もっと子どもたちがワクワクするような、楽しい言葉遣いに変更してください」
- 例「5つのアイデアのうち、2つ目の『探検ごっこ』について、具体的な準備物やルールをさらに詳しく教えてください」
- 例「出力されたVBAコードに、土日の背景に色を付ける機能を追加できますか?」
以上のプロンプトの”コツ”は、各種AIを提供している会社側から、既に公式で出されています。これらの情報を土台にしつつ、保育現場で使う想定で、一部アレンジを加えて記載しています。適当に作ったものではないので、その点は安心してご利用ください。
Gemini⇒Gemini for Google Workspace ヘルプ 「効果的な AI プロンプトの作成」
ChatGPT⇒OpenAI Help Center 「より良い結果を得るためのヒント」
(※ページは英語ですが、ブラウザの翻訳機能で十分に理解できます)
Claude⇒Anthropic 「プロンプトライブラリ」
筆者が実践している㊙プロンプト集(コピペ&即実践可)
以下は、筆者が実践している㊙プロンプト集ですが、その多くが一発で回答を出すのではなく、あくまでもアイデア・下書き案として出すためのプロンプト集で、仕上げや確認が必須になることは、ご承知おきください。
保育所や幼保連携型認定こども園、共通で使える内容に一部改変して記載していますので、実際に使用する際は、コピー&ペーストをして、一部を削除(幼保連携認定こども園なら保育所保育指針の部分など)したり、追加したりして、オリジナルのプロンプトを作ってから、使用してください。
月案・週案作成時のプロンプト例
「(先月の子どもの姿で、特定の個人と分からないような書き方をした上で)上記の文章は、○歳△か月の子どもの姿です。この姿・様子をもとに、保育所保育指針/幼保連携認定こども園教育・保育要領を参考にして、◇月における月案・週案を立案してください。なお、立案時における出力項目は、ねらい・内容・環境構成・予想される子どもの姿・保育者の援助とし、各項目内において☆個ずつの箇条書き(□文字以内)で出力してください」
(※幼児クラス等では、子どもの姿の部分をクラスの様子で置き換えて使ってください)
「(上記のプロンプトに付け加えたり、一旦出力された文章を再入力した上で)今、クラスでは○○に力を入れている・△△が課題になっているので、その点も盛り込んだ案を出してください」
ちなみに、【子どもの姿】の記載がいい加減だと、出力される文章も微妙になります。「保育は観察から」と、筆者自身、先輩から言われてきましたが、AI時代においてもそこは変わらないということですね。
クラスだより作成時のプロンプト例
「○歳児の△月に出す、クラスだよりの前文案を複数あげてください。(その際、行事の△△について、参加していただいたことのお礼を、あまり堅苦しくない文体で出してください)」
「(書きたいことをプロンプト内に箇条書きした後)上記の箇条書きされた文章から、最も読み手(乳幼児の保護者向け)に伝わりやすい文章構成案を、複数あげてください」
「(仕上げした後の文章を、プロンプト内にコピー&ペーストした後)上記の文章内容に、最も適切な題名案を複数あげてください。その際、題名には保育の意図が伝わりつつも、○文字以内でおさまる程度にしてください」
「(仕上げした後の文章を、プロンプト内にコピー&ペーストした後)上記の文章を読んだ時に、乳幼児のお子さんをもつ保護者が、ワクワクするような仕掛けや文章案、更に読みたくなるような文章案を複数あげてください」
※イラストは保育雑誌やインターネット上からもってくる方法もありますが、イメージしたものがなければ、【おたよりのイラスト・ぬりえ・制作の型紙までAIにおまかせ!!】の記事でも紹介したように、AIに作ってもらい、貼り付けをするのも一つです。
書類チェックのためのプロンプト例
「(チェックしてほしい文章を、プロンプト内にコピー&ペーストした後)上記の文章において、誤字脱字がないか、文章の流れに不自然なところがないか、意味不明なところがないかを確認して、訂正・修正してください」
「(チェックしてほしい文章を、プロンプト内にコピー&ペーストした後)上記の文章の読み手は、乳幼児の子どもをもつ保護者です。文章全体を通して、読み手にとって、伝わりにくい部分はないか、誤解を受ける可能性がある内容はないか、読みづらさはないか、これら3つの視点で精査し、訂正・修正した方が良い部分があれば、出してください。更に、直した方が良い理由についても教えてください」
「(チェックしてほしい文章を、プロンプト内にコピー&ペーストした後)上記の文章は、○○をテーマ・軸にして書いたつもりですが、その意図は伝わりますか?もし、伝わらない場合は、より良い表現や、訂正・修正箇所を教えてください」
プロンプトをAIに考えてもらう
ここまでいろいろとプロンプトを紹介してきましたが、実は、プロンプトそのものを”AIに考えてもらう”というアプローチもあります。
例えば「○歳児△月に出すクラスだよりの前文で、イメージ通りの文章を生成するためのポイントを教えて」などと、聞いてみることで、より適切なプロンプトを教えてもらうことができます。
皆さんも、いろいろと試行錯誤して、より自分の勤める園に適したプロンプトを見つけ、保育業務効率化に繋げていってください。