AIはとても便利で、私たちの業務を助けてくれる素晴らしい技術ですが、使い方を一歩間違えるとトラブルの原因にもなります。特に保育の現場では、子どもたちの情報や権利を守るために、細心の注意が必要です。ここでは、AIを安全に使うために必ず知っておきたい注意点と、園でルールを作る際のポイントについてお伝えします。
著作権について ~AIが作った生成物、どう使う?~
AIに文章やイラスト、音楽や動画を、簡単に作ってもらうことができるようになった現在。AIが作ったこれらの作品(生成物)は、自由に使って良いのでしょうか? ここには「著作権」という大切な権利が関わってきます。
基本的な考え方
- AI自体に著作権はない: 現在の法律では、基本的にAIそのものに著作権は認められていません。
著作権は「人間の思想または感情を創作的に表現したもの」に対して発生するためです。 - AI生成物の著作権は複雑: AIが作った文章やイラスト、音楽や動画の著作権が誰に帰属するのか(AIの開発者?利用者?それとも誰にも帰属しない?)は、まだ法的に確立されていない部分が多く、議論が続いています。
- 利用するAIツールの規約を確認する: 多くのAIツールでは、生成物の利用について規約で定めています。商用利用が可能か、クレジット表記が必要かなど、必ず確認しましょう。
- 他人の著作物を無断で学習したAIのリスク: AIは、インターネット上のたくさんの情報を学習して賢くなります。その中には、著作権で保護された文章や画像、音楽や動画が含まれている可能性もあり得ます。そのため、AIが生成したものが、意図せず他人の著作物と酷似してしまうリスクもゼロではありません。
生成AIによる生成自体は、個人が私的使用の目的で生成する場合(著作権法第30条第1項)や企業・団体等の内部において、権利者から許諾を得て利用することを前提に、検討の過程において生成する場合(同法第30条の3)は、これらの権利制限規定の範囲内であれば、権利者の許諾なく適法に行うことができます。
これに対して、AI生成物の利用(インターネットでの配信、複製物の譲渡等)については、
権利制限規定の範囲外となる場合が多いと考えられます。
そのため、AI生成物の生成自体は適法に行える場合でも、生成物を更に利用しようとする場合は、著作権侵害を生じさせないか確認(3-1-5も参照)することが必要です。
著作権侵害の要件としては、既存の著作物との「類似性」及び「依拠性」の双方が必要です。そのため、既存の著作物との関係で「類似性」がないAI生成物については、その利用について、著作権法上、特段の許諾を得ることは不要です。
そのため、AI生成物については、その利用に先立って、まずは既存の著作物と類似していないかを確認することが必要です。
保育現場でAI生成物を利用する際の注意点
- 園だよりや行事のポスターに使う場合
- AIが作った文章をそのまま使うのではなく、必ず自分の言葉で加筆・修正しましょう。あくまで「下書き」「たたき台」としての活用が良いでしょう。
- AIが生成したイラストを利用する場合は、そのAIツールの利用規約で、園での利用(非営利目的であっても、配布物に使う場合は注意が必要なケースも)が許可されているか確認しましょう。著作権フリーの素材サイトを利用する方が、安全な場合もあります。
- 教材として利用する場合
- AIが作った物語や詩などを教材として使う場合も、内容が既存の作品と似ていないか(「類似性」)、念のため確認すると良いでしょう。
- 子どもたちがAIを使って何かを作る活動をする場合は、著作権についても優しく伝える良い機会になります。
(学校その他の教育機関における複製等)
第三十五条 学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除く。)において教育を担任する者及び授業を受ける者は、その授業の過程における利用に供することを目的とする場合には、その必要と認められる限度において、公表された著作物を複製し、若しくは公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。以下この条において同じ。)を行い、又は公表された著作物であつて公衆送信されるものを受信装置を用いて公に伝達することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該複製の部数及び当該複製、公衆送信又は伝達の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。(以下省略)著作権法 第三十五条 より抜粋
大切なこと: AIが作ったからといって、何でも自由に使えるわけではありません。特に、お祭りやバザーの出店で、キャラクターを利用した物を”売る”となった場合や、地域のお祭りや発表会に”報酬を得た上で”参加し、楽曲を利用するといった場合は、念のため法律家の方や著作権を有する権利者の方に、確認しておくことを、強くおすすめします。その他の場合においても、迷った際は園長や主任に相談したり、信頼できる情報源で確認したりして、「安全」に「賢く」使っていきましょう。
ちなみに、当サイトで配布しているVBAツールやファイル(AI生成物)は、そもそも筆者自身が著作権を放棄しているので、安心してご利用ください。
生成過程においても、筆者が試行錯誤して編み出した、独自のプロンプトを経て作成したものなので、「依拠性」はありません。「類似性」に関しては、調べた限りにおいては類似したものはなかったですが、世の中にある書式全てを確認できたわけではないので、”完全に大丈夫です”とは言い切れないのが現状です。ただし、著作権侵害行為の要件としては、「類似性」と「依拠性」の双方が必要なので、片方(「依拠性」がない)が確立されている以上、適法内だと考えております。AI生成物の著作権放棄に関しては、プライバシーポリシーにも明記していますので、一度ご確認ください。
個人情報・プライバシーの保護 ~子どもたちの情報、AIに入力しても大丈夫?~
保育園では、子どもたちの名前、生年月日、住所、健康状態、家庭環境など、たくさんの個人情報を取り扱います。これらの個人情報をAIに入力することは、絶対に避けなければなりません。
なぜAIに個人情報を入力してはいけないの?
- 情報漏洩のリスク: AIツールはインターネットを介して利用することが多く、入力した情報が外部に漏洩する可能性がゼロではありません。一度漏洩した個人情報は、取り戻すことができません。
- AIの学習データに使われる可能性: 入力した情報が、AIの学習データとして利用されてしまう可能性があります。そうなると、意図しない形で情報が拡散されたり、他の人がアクセスできる状態になったりする危険性も考えられます。
- プライバシー侵害: 子どもたちや保護者のプライバシーを、深刻に侵害する恐れがあります。
①生成AIに入力した個人情報やプライバシーに関する情報が生成AIの機械学習に利用されることがあり、生成AIから回答として出力されるリスクがある。また、AIが生成した回答に不正確な個人情報やプライバシーに関する情報が含まれるリスクもある。
② 上記の点を踏まえ、学校教育においては、子供達が校内や家庭で利用する場合、教職員が授業や校務等で利用する場合のいずれにおいても、以下の点に留意することが必要。
生成AIに指示文(プロンプト)を入力する際は、個人情報やプライバシーに関する情報を入力しない。(以下省略)令和5年7月4日 文部科学省 初等中等教育局
『初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン』より一部抜粋
AIに入力しても良い情報、絶対ダメな情報
- AIに入力しても比較的安全な情報(一般的な相談やアイデア出しなど)
- 「5歳児向けの雨の日の室内遊びのアイデアを教えてください」
- 「保護者向けのおたよりで、春の季節の挨拶文を考えてください」
- 「食育だよりのテーマで、野菜嫌いを克服するヒントを教えて」
- (このように、個人を特定できる情報を含まない一般的な内容はOKです)
- AIに絶対に入力してはいけない情報(子どもたちや保護者の個人情報)
- 氏名、生年月日、年齢(具体的な月齢なども含む)
- 住所、電話番号、メールアドレス
- 写真、動画(顔が写っているものなど個人が特定できるもの)
- 健康状態、アレルギー情報、既往歴、発達に関する記録
- 家庭環境、家族構成、保護者の職業
- 個別のエピソード(誰が何をしたか、など個人が特定できる具体的な出来事)
AIに何かを要約させたい、文章化させたい場合
- 必ず情報を匿名化する: 例えば、園内会議の議事録をAIに要約させたい場合でも、出席者の名前や、特定の園児に関する具体的な記述は、必ず一般的な表現に置き換えるか、削除してから入力しましょう。
- (例:「〇〇ちゃんが△△で困っていた」→「ある園児が活動中に困っている様子が見られた」)
- ローカル環境で使えるAIツールを検討する: 一部のAIツールは、インターネットに接続せずに自分のパソコンの中だけで動作するものもあります。機密性の高い情報を扱う場合は、そのようなツールの利用も検討肢の一つですが、それでも個人情報の入力は慎重に行うべきです。
子どもたちの情報を守ることは、保育士として最も大切な責務の一つです。
情報保護を最優先に考えた上で、AIを活用していきましょう。
セキュリティに関する注意点と園でのルール作りのポイント
AIを安全に利用するためには、著作権や個人情報保護に加えて、基本的なセキュリティ対策も欠かせません。また、園全体で安心してAIを活用できるよう、ルール作りをすることも大切です。
個人でできるセキュリティ対策
- パスワード管理の徹底: AIツールを利用するためにアカウント登録が必要な場合、パスワードは他のサービスと使い回さず、複雑なもの(大文字・小文字・数字・記号を組み合わせるなど)を設定しましょう。
- 不審なメールやサイトに注意: AIを騙ったフィッシング詐欺(偽のメールやサイトで個人情報をだまし取る手口)も考えられます。提供元を確認し、怪しいリンクは絶対に!!クリックしないようにしましょう。
- ソフトウェアを最新の状態に保つ: パソコンやスマートフォンのOS(基本ソフト)やセキュリティソフトは、常に最新の状態にアップデートしておきましょう。
- 公共のWi-Fi利用時の注意: カフェなどの公共のWi-FiでAIツールを利用する際は、情報が盗み見られるリスクがないか注意が必要です。重要な情報のやり取りは避けるか、信頼できるネットワーク環境で行いましょう。
園でのルール作りのポイント
AIを導入する際には、個人の判断だけでなく、園全体で共通認識を持ち、ルールを定めて運用することが非常に重要です。
- 利用目的と範囲の明確化
- どのような業務でAIを利用するのか(例:書類作成の補助、アイデア出しなど)
- どのAIツールを利用して良いのか(園として推奨するツール、禁止するツールなど)
- 個人情報・機密情報の取り扱いルールの徹底
- AIに入力してはいけない情報のリストを作成し、全職員で共有する。
- 万が一、個人情報を入力してしまった場合の報告・対応手順を定める。
- 著作権に関するルールの確認
- AI生成物を利用する際の注意点(商用利用の可否、クレジット表記など)を周知する。
- 生成物を園の成果物として利用する際の確認プロセスを設ける。
- セキュリティ対策の共通認識
- アカウント管理のルール(パスワード設定、共有の禁止など)を定める。
- 不審なサイトやメールへの対応方法を共有する。
- AI利用に関する研修の実施
- 全職員がAIの基本的な知識、正しい使い方、リスクについて理解できるように、定期的な研修の機会を設ける。
- 成功事例や失敗事例を共有し、学び合う場を作る。
- 相談窓口の設置
- AIの利用で困ったことや、判断に迷うことがあった場合に、気軽に相談できる担当者や窓口を決めておく。
- 定期的なルールの見直し
- AI技術は日々進化しています。園の利用状況や社会情勢に合わせて、定期的にルールを見直し、改善していくことが大切です。
これらのルールは、園に関わる全ての人たちのことを守り、安心してAIという新しい道具を活用していくためのものです。みんなで話し合い、園の状況に合ったルールを作っていきましょう。
※当ブログがWebアプリではなく、日本国内で最も普及しているWindowsのExcel上で動作する、”マクロ(VBAツール)を無料配布する”という方法をとっているのもこのためです。機密性の高い情報を扱いつつ、業務効率化を図りたい場合は、各園のパソコン内で完結できる方法(ローカル環境)をとるのが最善と思い、そのようにしています。ちなみに今は、テキストからの指示のみでWebアプリを作成したり、AIエージェントを利用して自動化する方法もありますが、Webアプリについては開発者側(=筆者)にセキュリティ管理が必要になるため断念し、AIエージェントについては、個人情報の保護という観点から、現在は様子見という状況です。それに今は、セキュリティ管理がしっかりとしているICTを利用するというのが一般的でしょうし、なにより著者自身も使用していました。そのICTに関する選び方や特徴などの記事は、こちらにありますので、よければ読んでみてください。